黒髪の悪魔

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「なぁ、今井。」 「はい?」 トランクに乗せていた発泡スチロールを下ろしながら、今井は振り返らずに言った。 いつもと変わらぬ横顔からは何も読み取れない。 念の為と着せかえたセーターの襟が気持ち悪いのか、無意識にひっぱったりしている。 今井はシャツを好んで着るが、脱ぎ易い為、朝から無理矢理着せたのだ。 男相手には脱がないが、今日は初花がいる。 ついでに古谷さんも。 「頼むから絶対脱ぐなよ」 「自分の前以外だと嫌ですか?」 「やかましい。早くカニを渡せ」 「嫌なんですか?」 「渡さないならお前が運べよ」 「先日脱臼した同僚に重い荷物を持たせるおつもりですか?」 「その脱臼を骨折にしない為に、庇って下敷きになってくれた先輩に持たせる気か?」 「あれで無傷とは素晴らしい」 「無傷なわけあるか!」 現場の廃ビルで足を滑らせた今井をとっさに引っ張ったが、抱えていた機材が重く、2人して階段から落ちたのだ。 今井は肩を脱臼。 俺は全身打撲。 血は流れなかったものの、服の下は痣だらけだ。
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