黒髪の悪魔

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隣には少し前の長い黒髪の青年がいた。 コーヒー片手に、こちらは日本語びっしりの新聞を開いている。 切れ長の目をした、純日本人顔の男だ。 歳は俺より少し若いぐらいか。 パーカーに細身のスラックス。 下にスーツを着ているのだろう。 ごく普通の、まぁ顔がやたら整ったサラリーマンだ。 目が合うと、彼は無表情のまま自分の新聞を俺に渡した。 もしや、今の発言は俺に向けられたものだったのか。 「読めないなら日本語の新聞を読んでみてはいかがですか?」 彼には俺の顔が見えていないのだろうか。 目の焦点はしっかりしているけれど。 怪訝に新聞を見て考えていると、彼は何事もなかったかのようにコーヒーを飲み始めた。 隣の知人に新聞を渡しただけのような自然な動作だ。
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