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「どちらも読める。」
相手の真意がさっぱりわからないので、とりあえず俺は日本語の新聞を彼の前に置いた。
朝っぱらから妙な輩には関わりたくない。
「余計なお世話でしたね。」
彼はそう言って微笑み、立ち上がった。
俺とさほど変わらない長身だ。
彼の表情はいたって穏やかで、俺をからかう様子も、気まずさを感じている様子もない。
一言で言って変な男だ。
「どうしてあんな質問を?」
立ち去ろうとした彼の背に、俺はそう投げ掛けてしまった。
明らかに外国人の俺に話し掛けてくるのは、ナンパ目的か勧誘ぐらいのもので、皆カタコトの英語か日本語で話し掛けてくる。
彼のような質問をされたのは初めてだ。
妙だとは思うが、ふと気になって仕方がなくなった。
「目が泳いでた。だからもし読めないなら止めたらいいのにと思いましてね。偶然にも私は読み終わった新聞を持っていましたし」
「こんな外見なのに?」
「外見…ね。確かに貴方は明らかにアメリカ人の顔立ちをされていますが、だからといって英語が堪能かどうかは私にはわかりませんよ。英語圏で育ったのかわからないし、日本語しか話せないかもしれない。外見で何がわかるというのでしょう」
彼は何故そんなことを聞くのかわからないといった感じで、首をかしげた。
「まあ、貴方が話せようが話せまいが私には全く興味はありませんが。では失礼。」
つまらなさそうに彼は言い捨てると、さっさと店を出て行った。
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