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「これは……」
男と共に、ある場所に降り立った少女は、そこにそびえる大樹を見上げて呟いた。
恐らく、『何でもアリ』な夢の中でなければ、その大きさを把握することは不可能であっただろう。
「こいつあな、全ての夢が繋がる場所。共通の歴史、知識、経験を持つ一つの人格。まあ、言うなれば『虚空の記録』ってえやつだな」
男は、過去の記憶を引き出して説明する。
かつて、幼い頃に彼自身がされたように。
「こいつに聞けば、俺ら『バク』に必要な情報が全て手に入る。その気になれば、超能力だって使えるようになるぜ」
夢の中において、何を超能力とするのかは別としてな――と、男は宙に浮きながら言う。
「すごい……こんなもの、本当に、いいの?」
その主語のない問いの意味も、男はすぐに理解した。
「まあ、仮に、『世界を滅ぼす方法』を聞いたところで、実行できるかはまた別だからな。ここは……そうだな。あらゆる分野を取り扱う『図書館』みたいなものだと考えるといい」
「図書館……」
「そう、『情報』はあるが、それを実行出来るかどうかは本人の努力次第。読みたい情報が難しくなればなる程、理解するのにも時間がかかるってえ寸法よ」
「それが、『試練』ってこと?」
「ああ。なにせ、俺なんかは『バク』の情報を得るだけで腹いっぱいになっちまったからなあ……」
男がポンと腹を叩く。
「フフ……読書とか、苦手そうだものね」
「うるせえやい」
「ところで――」
この『御守り』には何の意味があったのかしら――と、訊ねる少女。
すかさず親指を立てる男。
「イカしてるじゃねえか」
グイと歪む口。輝く白い歯。
そうだ。まずは、この男のセンスを治す術を聞いてみよう――。
少女の胸にひとつ、大きな目標の旗が立った。
(2010/03/13/『獏と微睡む③』/了)
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