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「次元というのは、捉えることのできる軸の数だよ。君の現実では、幅、奥行き、高さの3つ」
ピョコリ、と彼女の長い黒髪が一本跳ねる。答えてくれたのはその髪のようだ。
女の人はもう、僕と話す気はないみたい。仕方がないから、僕は細い髪に焦点を合わせる。
――3つより多いこともあるの?
「ははは、君は面白いことを言う」
また別の髪。
「いま君のいる場所が、まさに『3つより多い場所』じゃないか」
――ここ? 夢の中が?
「そうさ。君は、夢の記憶を全て現実に持ち出すことはできないだろう?」
――少しなら持ち出せるけど……確かに、全部は無理。
「そりゃそうさ。高次元で得た情報が、下位の次元で理解できるはずがないんだから。忘れてしまわなければ、脳がパンクしてしまう」
――高次元? 下位?
「ああ……そうだな。じゃあ、次元を落として具体的に考えてみようか。要は、いくら三次元で『高さ』という情報を得ても、二次元では理解ができないってこと。これなら解る?」
――なんとなく。
「なんとなく上等。夢にはね、現実では理解できない情報が山ほどあるのさ。言葉にも変換できない、表現する単語すらない情報が。そりゃもう、ワンサカ」
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