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女の人の声。
彼女は、乱れた髪をバサリと一度手でかいてまとめた。
夢の香りがして。
僕たちの足は地についた。
――ここは?
目の前にそびえるのは大きな――地球の倍くらいあるんじゃないかっていうサイズの樹。
ちょっと、夢の中でも驚く。
「ここは全ての夢が繋がる場所。共通の歴史、知識、経験を持つ一つの人格。現実の言葉では『虚空の記録』が一番近いかな。君がもし、『こちら側』に来たいと願うなら、『彼』に色々と訊ねてみるといいわ」
女の人が樹を見上げながら言う。
――樹が喋るの?
「喋るとか、聞くとか、そういう概念は夢の中では無効よ。そもそも、『五感』という概念は肉体というセンサがなければ意味を為さない――まあ、私が説明しても仕方がないわね。そういった疑問を含めて、彼に訊ねてみなさい」
女の人はクルリとこちらを振り向いて、微笑んだ。
「さて、私の仕事はここまで。あとは君に任せる」
――え? 待ってよ。僕はどうすればいいのさ。
手を伸ばしたけれど、届かない。
何でもアリなはずなのに。
「大丈夫。君の夢もじきに終わる。あとは目覚めて『殻』と相談しなさい」
長い黒髪――後ろ姿が遠ざかる。
待って、待って。
ああ、だんだん感覚が鈍くなる。
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