0.

7/8
前へ
/12ページ
次へ
   女の人の声。  彼女は、乱れた髪をバサリと一度手でかいてまとめた。  夢の香りがして。  僕たちの足は地についた。  ――ここは?  目の前にそびえるのは大きな――地球の倍くらいあるんじゃないかっていうサイズの樹。  ちょっと、夢の中でも驚く。 「ここは全ての夢が繋がる場所。共通の歴史、知識、経験を持つ一つの人格。現実の言葉では『虚空の記録』が一番近いかな。君がもし、『こちら側』に来たいと願うなら、『彼』に色々と訊ねてみるといいわ」  女の人が樹を見上げながら言う。  ――樹が喋るの? 「喋るとか、聞くとか、そういう概念は夢の中では無効よ。そもそも、『五感』という概念は肉体というセンサがなければ意味を為さない――まあ、私が説明しても仕方がないわね。そういった疑問を含めて、彼に訊ねてみなさい」  女の人はクルリとこちらを振り向いて、微笑んだ。 「さて、私の仕事はここまで。あとは君に任せる」  ――え? 待ってよ。僕はどうすればいいのさ。  手を伸ばしたけれど、届かない。  何でもアリなはずなのに。 「大丈夫。君の夢もじきに終わる。あとは目覚めて『殻』と相談しなさい」  長い黒髪――後ろ姿が遠ざかる。  待って、待って。  ああ、だんだん感覚が鈍くなる。  
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加