第十章 ドキドキ温泉旅行

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 正直言って自分の上に美香のような美少女が寝ているとなると色々とまずい。美少女とは言っても彼女の体は充分に大人の女である。いや、大人の女も顔負けする程の体型なのだ。  その素晴らしきスタイルの持ち主である美香がこうして着ている服を乱し、大袈裟に言ってしまえば半裸状態で自分の上で寝ていると思うと自我が崩れかけた。まるで獲物に反応する獣にでもなったようだ。  頭では理屈は理解できたが、身体は気付けば美香の雲のように白くて柔らかそうな曲線へと手が伸びかけていた。 「い、いや…駄目だ駄目だ。女の子に手を上げるのは男として失格だ…」  込み上げてくる欲望を何とか抑え、亮介は伸びていた手を止めてから美香を優しく退かした。  その後乱れた浴衣をちゃんと正して掛け布団を掛けてある程度離れた所に仕方無く布団をもう一枚敷いて美香に背を向けるように寝転がり、彼は考えた。 『もう自分の記憶なんてどうでもいいの。ただ、亮介くんとずっと一緒に居たいの』  さっき彼女はそんな事を言った。まあ酔っていたから本気かどうかは分かりづらいところではある。しかし、お酒に酔うと気付かない内に本心を言ってしまうシチュエーションはあるらしいし、もしあれが本心からの言葉だったとしたら…。  そう思うと彼女の記憶はもう探さないでこのまま暮らしてしまおうという考えが生まれてしまう。  美香は凄く魅力的な女の子だ。見ず知らずの自分のためにわざわざ家事を全部やってくれたり、文句の一言も言わずに一生懸命に尽くしてくれる。  そんな彼女が言ったのだ。ずっと一緒に居たいと、もう元の場所に戻らなくてもいいと。ならばこれからもずっと一緒に居てもらいたい。こっちの方が幸せならその方が良い。  だがそれと同時に彼女は大切な親の記憶が無いまま人生を過ごす事になってしまう。それは親を亡くしたも同然。親を亡くした亮介にとってそれはあってはならないことなのだ。
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