第十章 ドキドキ温泉旅行

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 それから二人は少しだけ話しながら歩くこと十分。亮介は見渡す限り草原のような場所に来ていた。 「ここは?」  ふと亮介はちょっと呆然としながら秋に訊いた。 「え、えーと……いつもここで太一とあ、遊んでいるんです…」  彼女は太一のリードを外してそう答えると一緒に持ってきていた袋から水色のフリスビーを取り出した。彼女はフリスビーをえいと軽く投げた。  太一は楽しそうに空中を飛ぶフリスビーを追いかけ、見事なジャンプで口でキャッチした。そしてくわえたまま秋の所に戻ってきたので彼女はよしよしと優しく微笑みながら撫でてあげる。  亮介はそんな太一を撫でている彼女を見て、何か美香や裕佳梨とは違った魅力を感じた。共に一人っ子(例によって美香は不明だが一応そういうことで)である二人とは違って兄弟やこうしたペットが居るから面倒見が良いように思えた。 「り、亮介さんもや、やってみますか…?」  すると秋がぎこちない動作でそっとフリスビーを差し出してきたので彼はフリスビーを受け取って軽く投げた。  だが太一は秋の足元に座って取りに行こうとしない。しかも亮介の方に向いて「早く取りに行けって。ウスノロ」といった感じになんか尻尾をフリスビーを投げた方向を指している。なんとも器用で、しかもとことんムカつく犬だ。  いつか神谷も似たようなことしてたな。確か犬の格好で男からの命令はお断りだわんとか言ってたっけ…。  そんなことを思いながら仕方無く彼はフリスビーを取りに行った。
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