水鏡の旅立ち

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そこまで言うと、弟はいつの間にか取り出した、あの古い本を開いた。本はそれ自体がぼんやりと燐光を放っていて、日本語でもなく英語でもない文字を浮かび上がらせていた。 何か呟く。 小さな声だったけれど、明らかに日本語の発音じゃない。 「…え?」 ぼうっと水溜りが光り、波紋が立つ。 風も吹いていない。勿論誰かが触ったわけでもない。 波紋はゆっくりと広がりながら、水溜りに映る世界を揺らめかせながら変えていった。 そこに映る景色は、明らかにさっきまでの夜の風景じゃない。 空の満月は金色なのに、映る満月は紅色だ。 何より、覗き込む私と弟の姿が映って、いない。 、
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