129人が本棚に入れています
本棚に追加
そこまで言うと、弟はいつの間にか取り出した、あの古い本を開いた。本はそれ自体がぼんやりと燐光を放っていて、日本語でもなく英語でもない文字を浮かび上がらせていた。
何か呟く。
小さな声だったけれど、明らかに日本語の発音じゃない。
「…え?」
ぼうっと水溜りが光り、波紋が立つ。
風も吹いていない。勿論誰かが触ったわけでもない。
波紋はゆっくりと広がりながら、水溜りに映る世界を揺らめかせながら変えていった。
そこに映る景色は、明らかにさっきまでの夜の風景じゃない。
空の満月は金色なのに、映る満月は紅色だ。
何より、覗き込む私と弟の姿が映って、いない。
、
最初のコメントを投稿しよう!