水鏡の旅立ち

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ドアに背中を向けている犯人は、私に気付いた様子はなく、おもちゃの箱を盛大にひっくり返している。青の半透明のおもちゃ箱は重力に忠実に従ってその中身を綺麗にぶちまけた。 私よりいくぶん小さい背中。バックプリントがシベリアンハスキーの柄の黒いTシャツを着ている。 見慣れた背中に見慣れた頭。 現在進行形で我が家を荒らしまわっているのは、二歳年下の、私の弟だった。 二年前に弟が両親から買ってもらったミニカーのセットがばらばらばらばらっ、と床に落ちていく。 前々から結構おもちゃを乱暴に扱うとは思っていたけど、今日は特にぞんざいに扱っている。 他にも赤やら青やら黄色やら白やら、いろんな色のブロックが無秩序に散らばっている。 慎重にそれを拾い集めながら、私は弟のそばに歩み寄った。
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