喫茶店

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喫茶店

木製の重い扉を開くと、カウンターにママがいる。 オーナーの白木さんは、真っ白な髪と髭の持ち主で、無口だけれども、無愛想とは違う。 いつもしゃんと背筋を伸ばして、蝶ネクタイを閉めて、時折低い声で相づちを打つ。 珈琲を煎れる時だけは、近寄りがたい雰囲気があるけれども、それは珈琲を愛してやまないからだとママは言う。 注文があってから豆を引くこの店の珈琲は、ママいわく通が飲む珈琲で、だから子供は滅多に来ないらしい。 それでも、アタシに言うオーナーの、いらっしゃいませ、は大人の人に言うのとおんなじで、アタシは、紳士だなぁと惚れ惚れする。 ランドセルを背負ったアタシとシバタにも、やっぱりオーナーはいつもの調子で、いらっしゃいませと言った。 シバタはピンク色のソーダ水を窓辺にかざしたり、ソーダ水越しに店内を眺めたりした後、ストローですぅ~と飲み干した。 店内に流れているクラシックと、見事なまでにピッタリのテンポで。 「シバタ君も、またいらして下さいね」 丁寧に頭を下げながら、ママはアタシ達を見送った。 アタシとシバタは、オレンジに染まる街並みを、またてくてくと歩いた。時折、ピンク色をした舌を見せ合いっこしながら。
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