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「まるで死神だな」
今日も誰かの死を告げる初老のニュースキャスターに向かって、アサギは変声前の男子のような声でそう揶揄した。
窓から射し込む陽光は橙色に染まり、狭い部室を舞う埃が微かな煌めきを残し何処かへ消えていく。
「また自殺?」
「これで11人目」
「酷いね」
年間3万人以上が自ら命を断っているのだからその数に問題はない。
局地的に起こっている事が問題なのだ。
都会の喧騒とは程遠い地方都市で起こり始めたこの"事件"は怪奇自殺として、今やテレビ番組の中核を支配していた。
明らかに自殺だが、自殺ではない。
専門家の見聞はそんな曖昧な言葉で揺らついている。
手法は異なるが、何らかの関連性が有るのは明らかだ。
「ウェルテル効果かな? 後追い自殺みたいなさ」
「いや、それはない」
腰までかかる程の長い黒髪をゴムで纏めながら、アサギはそう否定した。
切れ長の瞳は左手に持つ資料に向けられ、薄い唇は堅く結ばれている。
俺はアサギのそんな表情が好きだった。
「最初に死んだ女にそんなカリスマ性はないし、そもそもこれは自殺ではない。殺人だ」
専門家ですらはっきり言わない事柄を、アサギはきっぱりと言ってのけると、訝(いぶか)しげに眉間に皺を寄せた。
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