禁断じゃなくなった果実

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「私、林檎は食べれないの」   先輩が、僕の持つ赤い林檎をじっと凝視したまま言う。   肘から先の両腕をどこかで落としてきたのか、作りかけのプラモデルのような先輩。   「だって林檎は禁断の果実だもの。それを食べたから、人は罪を背負うことになったんでしょ?よくは知らないけれど……その話はプラネタリウムで聞いたわ。私、そういう作り話は信じるようにしてるの」   言葉とは裏腹に先輩は林檎に釘付け。もしかして一回も食べたことないのかな。   「作り話ってわかってるのに信じるんですか?」   僕にはわからない主義だ。本当に世の中にはいろんな主義が溢れている。   「作り話だから信じるのよ。現実だったら、信じるとか信じないとか、意味ないでしょ?」   先輩は僕に何かを説明をする時はいつも、空っぽの腕をふりながら必死に伝えようとしてくれる。 肘から先のジェスチャーは僕には見えないが、きっと先輩には素敵な動きが見えているのだろう。   「でも林檎は禁断の果実じゃないですよ」   そう言うと、先輩は初めて視線を僕に向けてくれた。   「……うそ?」   「ホントです。聖書にも、どんな資料にも林檎が禁断の果実とは書いてないです」   オロオロとしだす先輩。腕も何かを訴えるように激しく動く。   「でも、絵には林檎が描かれてたよ?」   縋るように足掻く先輩。   「むしろその絵のせいで禁断の果実は林檎だという勘違いが生まれたんですよ。林檎は禁断の果実なんかじゃなかったんです」  
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