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暗く深く何より地味な森だった。まだ昼なのに鬱蒼と繁る草木のせいで光は一切入ってこない。
別に気味が悪いわけでもない。暗いだけで何故か雰囲気がない。僕が恐怖を知らないからだろうか。
ハンマーやらノミやら食料が入った重いリュックサックを担ぎなおす。
ここら辺には良い石がない。
と、急に視界が開ける。眩しさのギャップに目が焼かれる。
少しずつ光に慣れてくると、目の前にはさっきまでの地味さが嘘のように美しい花畑が広がっていた。
呆気にとられていると、遠くに何か建っているのに気がついた。
花をできるだけ踏まないよう注意しながら近付いてみると、それは立派な石像だった。貴族の服装をした男の像。
そして綺麗な身なりをした美しい女がその像を必死に磨いていた。
「こんにちは」
声をかける。女はその時初めて僕に気付いたのか、一瞬面食らいながらもすぐに素敵な笑顔で挨拶を返してくれた。
「立派な像ですね。あなたが造ったんですか?」
何となく違う気がしたが他に上手い尋ね方も浮かばす、そう尋ねる。
女は立派と言われたのが嬉しかったのか、誇らしげに笑った。
「いいえ。彼は魔女が造ったの。あなたは旅人の方ですか?」
「はい。石を集めてます。……ここらの国には魔女がいるんですか?」
当然のことのように首を縦にふる女。
「あなたの国にはいないのですか?」
不思議そうに尋ねられたが当然いない。僕はその質問は無視して質問を返すことで会話を続ける。
「魔女がなぜこんな所に石像を?」
「この石像はもともと私の婚約者でした」
なるほど。それで?
「でも私は婚約なんて考えてもなくて……それに正直に言って彼は私のタイプじゃなかったんです。だから、そんなに結婚して欲しいなら魔女を殺してその心臓を持ってこい、という条件をだしました」
物語によくある話だ。
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