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白く冷たい雪が僕の肌に触れる度に言葉を手にし、一瞬で死んでいく。
何の役にも立たない僕の力。言葉なんて、いらないのに。
何千何万という数の遺言。罵倒。苦悶の叫び。
僕にしか聞こえない声なき声。肌から直接伝わる呪いの怨嗟。
僕は何もしてないのに。僕だけじゃなくみんな殺してるのに。
フードを深く被り手袋をする。
それでも、顔にかかる雪は避けられない。
俯く僕の目元で耳元で鼻の先で唇の上で、熱を奪いながら命を奪われる生命。
言葉を手にしただけで、どうしてこんなに痛いのか。
「あ!危ない!」
危険を示す子供の声。顔を上げると顔面に冷たい感触。
雪合戦のお約束。
僕は覚悟した。今回の雪は大きい。きっとさんざん僕を責めて死ぬだろう。
だけど、いつまでたっても怒声も、罵声も、呪いの言葉も響かなかった。
ただ、
「あったかいね」
それだけ残して雪は死んだ。
「ご、ごめんなさい!………?お兄さん……大丈夫……です、か……?」
なんでだろう?僕は泣いた。泣きながらフードを外した。
精一杯の笑顔を作る。
「大丈夫だよ」
この言葉が、伝わればいいなと思った。
きっと伝わる気がした。
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