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「何故君はいつも僕に乞いているのやら。まあそんなものもどうでもいいね」
主君役が正気を取り戻した途端、[乱雑]は一言として言葉を発さなくなった。
「でも、こいつが僕に平伏すとは中々滑稽かもしれない。明らかにここはいつもの生活居住区ではないようだけど」
はは、と鬱屈めいた笑いを[乱雑]に投げ掛ける
その直後、細い糸がするするとほつれていくように、桜吹雪も金の梁も新調の畳も、全てが徐々に消えていった。
「そしてこの夢は、また進展の無いままに終る」
君主役は最初から全てを分かっていたかのような目でその消滅を見送る。足元の畳が消え、二人が透明な場所に浮いた時、ふとどこからか軽快かつ何処か古風な鳩時計の音が鳴り響き
その何度目かの夢は、終りを告げる。
「午前6時30分。僕は自室のベッドの上で目を覚ます……」
最後の花びらがほつれきり、その桜の糸が"僕"の頬を掠った瞬間、僕の視界は桃源郷の夢から白い見慣れた天井へと、移り変わった。
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