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それは八月六日のことでした。
真夏のじめじめとした熱気の中、金色の太陽から熱い日差しを受けていた僕はその青い空にもうひとつの太陽を見たのです。
―――――
「あなたはとても醜い子よ」
「はい、母様」
「穢れた血の流れる子」
「はい、母様」
「私はいつでも貴方の首をとばす機会をうかがっているわ」
「はい、母様」
「ほら、私の着物が貴方の血で汚れてしまった」
「はい、母様」
「本当に邪魔な子ね」
「はい、母様」
「川へ行って洗っていらっしゃい」
「はい、母様」
季節は春。
仄かに色づいた桜が庭に雪を降らせていた。
白砂に影を落とす均一な窪みはその花々を受け入れ、競い合うかのように各々の輝きや、そのすべらかな表面を見せつけていた
美しく咲き誇る風物詩の色をも、軽々と圧倒するかのように。
その白砂の上に鎮座する、数、方角の全て定められたしとやかな岩。また、白く浮かぶ太陽から受ける光線を飲み込み、ゆらぎ、その少しぬるまった中をゆうゆうと舞う錦の魚は一層鮮やかな色彩を放っていた。
自分の首からは生暖かいものが流れ、筋状の傷からじわりじわりと広がってゆく官能的な痛みは、その夢のように眩しい風景を一層浮き世離れさせてゆくのだった。
全身の真新しい傷は、その美人画のような真っ白なぬらぬらとした肌に生を与え、少年は柔らかに微笑んだまま動くことはなかった。
生の象徴と同じ色の花を
胸元に忍ばせて
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「ピカドンじゃ。お前は、ピカドンの子じゃ。こいつなんかに負けん、ワシらの希望じゃ」
――僕はその灰色の大地に咲いた真っ赤な花に――そう、語りかけた
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