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『詩乃、ぼぉっとしてないで、手ぇ動かして。』
何時もの教室で二人並んで座り、提出期限の迫ったレポートをしている。
『判ってるけどさぁ。題材が難しいんだよね…幕末なんて遠すぎるよ…』
詩乃と呼ばれた女は己のレポートを手に取りながら頭を抱えた。
『…自分で選んだんだからちゃんとして。それに、幕末は遠い時代の話じゃないょ。』
もう1人の女は、そう言って少しだけ遠くを見る様な目をした。
『葵、たまに遠い目するよね。特に歴史の話すると。』
女は内心ドキリとした。
―悟らせちゃいけない―
瞬時に笑顔を作る
『こうすると、あの時代が見える気がするんだ。』
一瞬の間を、詩乃は見逃さなかったが、追及しても何も言わない事が判っているので気付かないフリを決め込んだ。
『行ってみたいね。幕末』
『お気楽なあんたが耐えれる程、あの時代はぬるくないよ』
無邪気に笑う詩乃に向かって、葵は毒を吐く。
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