第三章

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「残念だが、グアムとサイパンが陥落した。」と、総司令は苦々しそうに言った。ざわざわと、どよめきが起こった。 グアムとサイパンが陥落したという事は、アメリカが日本本土へ向かっている事を意味していた。 まことしやかに、囁かれていた本土決戦…。それが、本当になるかもしれなかった。和馬は、弥生の事を考えた。 (あの人を、戦争に巻き込みたくない。)と、思っていた。だが、本土決戦となればそうはいかない。 「一般市民をも、巻き込む本土決戦。それだけは、避けたいと自分は思います。」と、和馬は言った。 総司令も、頷きながら「確かに、田之倉の言う通りだな。」と、言った。 他の将校が「本土決戦に持ち込まずに、我が軍の勝利はあるのでしょうか?」と、言った。皆、黙っていた。 その頃、弥生の家に一通の手紙が届いた。福島の、伯父からだった。 弥生逹を、受け入れる用意が出来たので疎開して来いという物だった。東京は、あちこち爆撃されていて危険だった。 弥生は、和馬の事を考えた。福島に疎開すれば、和馬に会えなくなってしまう。それが、辛かった…。 和馬は、考えていた。何とか、本土決戦をせずに敵を倒す方法は無いだろうか?と…。本部内は、し~んと静まり返っていた。 皆、それぞれ考えているのだ。だが、良い案は浮かばなかった。和馬は、弥生を日本の皆を守りたいと思った。 やがて解散となり、皆それぞれの自室に戻った。和馬は、机に肘を付いて考えていた。 本土決戦だけは、絶対に避けたい。では、どうすれば良いのだろうか?答えは…出ない。和馬は、弥生の事を考えた。 病弱な、母を抱えての暮らしである。楽な筈は、なかった。和馬は、早く戦争が終わってくれと願った。 しかし、現実は和馬の願いとは裏腹に戦況は悪化している。米軍が、東京を狙っているという噂も耳に入ってきていた。 もし、地上戦をやるなら硫黄島や沖縄の可能性が高かった。和馬は、ふらりと外に出た。 辺りは、もう暗くなりかけていた。当てもなく歩いている内に、あの楡の木の側まで来ていた。 木の側に、誰か立っていた。和馬は、目を凝らして良く見た。それは、弥生だった。 和馬は、急いで駆け寄った。「弥生さん!」と、声を掛けた。弥生が、振り向いた。
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