第四章

1/4
前へ
/27ページ
次へ

第四章

弥生が福島に疎開して、幾つかの季節が過ぎた…。軍内部では、陸軍が圧倒的な力を持ち和馬逹空軍や海軍は隅に追いやられる形になっていた。 陸軍は、大陸(中国)に駐屯している関東軍を中心に団結していた。 「陸軍の連中、無茶しなけりゃ良いんだが…。」と、里田は言った。 「ああ、そうだな。また、南京大虐殺の様な真似をされたら大変だ。」と、和馬は言った。 和馬と里田は、同期という事もあって仲が良かった。里田は、海軍の将校になっていた。二人は、和馬の自室で話しをしていた。 「ところで、お前の恋人はどうしたんだ?」と、里田は言った。 「まだ、恋人と言えるかどうか…。福島に、疎開しているよ。」と、和馬は言った。福島は、和馬の父の故郷でもあった。 「そうか…。東京と福島じゃ、遠いよな。手紙は?来るんだろう?」と、里田は言った。 「ああ。今までに、何度か遣り取りしているよ。」と、和馬は言った。 弥生からは、月に何度か手紙が来ていた。和馬は、どんなに忙しくても返事を出していた。 弥生からの手紙には、いつも温かさが込められていた。和馬を気遣う、優しい言葉が綴られていた。 和馬は、弥生の手紙を見るたびに、元気付けられた。日本軍は、苦戦を強いられていた。 敵の空襲の回数も、最近は増えてきていた。一般市民の殆んどは、弥生の様に疎開していたが東京に残っている者も少なくなかった。 「なあ、里田。僕は、このままドイツと同盟を結んでいて良いのかって思うんだ。」と、和馬は言った。 「ヒトラーの事か?」と、里田は言った。「ああ。君も、聞いているだろう?彼の噂は…。」と、和馬は言った。 「知っているさ。ユダヤ人を、弾圧しているって話しだろう?」と、里田は言った。 「そうなんだ。我が大日本帝国は、そんな奴と手を結んでいて良いのだろうか?」と、和馬は言った。 和馬は、常々人は皆平等であると思っていた。なに人だろうと、人間には違いない。 だが、ヒトラーはユダヤ人を弾圧し殺戮までしていると聞く。和馬には、信じられなかった。 犯罪者なら別だが、何の罪も無い人逹を殺して良い訳が無かった。それに、ドイツが大量殺戮兵器を開発しているとの噂も聞いていた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加