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弥生は、伯母が差し出した饅頭を一つ受け取った。そして、一口かじった。口の中に、甘さが広がった。
何とも言えない位、美味しかった。「美味しい~!」と、弥生は言った。「そうかい。なら、良かった。」と、伯母は言った。
(和馬さんにも、食べさせてあげたいな~。)と、弥生は思っていた。
本部での、会議は続いていた。その時だった。[ウーッ]と、空襲警報が鳴り響いた。「何事だ!?」と、和馬が叫んだ。
「た、大変です!敵が、B―29が、こちらに向かって来ています!凄い数です!」と、一人の兵士が走って来て言った。
「何だと!?」と、叫ぶと和馬は窓に駆け寄った。見上げると、空を覆い尽くすほどのB―29が飛んでいた。
「何て事だ!」と、里田が叫んだ。この日、東京は大空襲を受けた…。
弥生は、何も知らずにいた。星空を見上げながら、和馬の事を考えていた。
(今頃、どうしているのかしら?きっと、忙しくしてるわね。)と、そんな事を思っていた。
大空襲を受けた東京は、辺り一面焼け野原になった。1945年3月10日未明の事だった…。
そして、弥生は後でこの事を知った。近所の人が知らせてくれたのだ。弥生は、目の前が真っ暗になった。
(和馬さん…。きっと、きっと無事よね?生きてるわよね?)と、心の中で繰り返し呟いていた…。
あの時、あの楡の木の下で和馬は生きて帰って来ると約束してくれたのだ。今の弥生は、それを信じるしかなかった…。
やがて、夜が明けた。和馬は、瓦礫の下から這い出した。辺り一面、焦土と化していた。後ろで、音がした。
和馬が振り向くと、里田が這い出して来る所だった。和馬は、手を貸してやった。「くそっ!何て事だ!」と、里田が叫んだ。
他にも、生きている人がいる様だった。和馬と里田は、その人逹に手を貸してやっていた。
「酷い事をする…。何故、こんな事に…。」と、和馬は呟く様に言った。辺りには、幾つもの遺体が横たわっていた。
これが戦争だと、和馬は改めて思い知らされた…。
第四章 完
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