第一章

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そんな時、空軍の青年将校“田之倉 和馬”は町中にいた。町は、一般市民で、ごった返していた。 食べる物も無く、人々は貧しい暮らしをしていた。「邪魔だ!退け!退け!」と、突然怒鳴り声が聞こえた。 和馬が振り向くと、一人の男が物凄い勢いでリヤカーを引いて走っていた。周りにいた人達は、驚いて道の脇へ避けた。 だが、一人の娘が避けきれずぶつかってしまった。「きゃ~っ!」と、娘は悲鳴を上げて倒れた。 リヤカーの男は、止まると娘を睨み付けた。「ぼさ~っと、突っ立てるからいけねぇんだろう!?」と、男は怒鳴った。 地面には、娘が持っていた芋が幾つか転がっていた。娘は、立ち上がると「こんな、人が多い所でリヤカーで走るなんて非常識だわ!」と、男に睨み返した。 「何だと!?この、あま!」と、男は娘を殴ろうと拳を振り上げた。だが、その手は誰かに掴まれた。 男が振り向くと、白い軍服姿の若者が立っていた。それは、和馬だった。 「止めろ。女を殴るなんて、男のする事じゃない。」と、和馬は静かな口調で言った。 和馬の軍服姿に、恐れをなしたのか男は大人しくなった。和馬が手を離すと男は「こ、これからは気を付けやがれ!」と、捨て台詞を吐いてリヤカーを引いて足早に去って行った。 和馬は、娘に声を掛けた。「大丈夫ですか?怪我は、ありませんか?」娘は、こくりと頷いた。 「危ない所を助けて頂いて、有り難う御座いました。私は“橘 弥生”と申します。」と、和馬に頭を下げた。 それから、弥生は地面に転がった芋を拾い始めた。和馬も手伝って、一緒に拾った。 やがて、芋を拾い終わると弥生は、もう一度和馬に頭を下げた。「本当に、有り難う御座いました。」 「危ないから、家まで送りましょう。また、あの手の輩が出て来ないとも限らない。」と、和馬は言った。 「そんな、そこまで、して頂いては申し訳ありません。」と、弥生は言った。 「僕なら、構いませんよ。申し遅れましたが、僕の名前は田之倉 和馬。空軍で将校をやっています。」 和馬が、そう言うと弥生は驚いた様に目を丸くして「まあ!将校さんでしたの!?そうとは知らず私…。」と、言った。 和馬は「気にしないで下さい。さあ、行きましょう。お宅は、遠いんですか?」と、言った。
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