最終章

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和馬は、あの楡の木の所へ行った。そして、木の幹に自分は大丈夫だ。皆で、力を合わせて頑張っている。と、腰のサーベルで刻み付けた。 今いる場所も、一緒に書いておいた。(弥生さんが、見てくれると良いんだが…。)と、和馬は思った。 それから、皆の所へ戻った。再び、皆と一緒に作業を始めた。 数日後、弥生は東京に向かう汽車に乗っていた。手には、出来るだけの食料を持っていた。 (和馬さん…。どうか、無事でいて…。)と、弥生は願った。汽車は、混んでいた。 だが、伯父が切符を取ってくれたので運良く座る事が出来た。 周りを見ると、皆疲れた顔をしていた。中には、兵隊の姿もあった。 和馬は、一般兵の親子と親しくなった。一緒に作業をしている内に、信頼関係の様なものが芽生えていた。 和馬は知らなかったが、それは弥生の父と兄であった。ちらりと写真を見ただけだったし、軍服を着て軍帽を被っていると顔など良く見えなかった。 もう、上官も部下も無い。皆、平等だった。里田は、他の人逹と一緒に遺体の処理をしていた。 処理と言っても、一ヶ所に集めて焼くだけだった。穴を掘って、その中で遺体を焼いた。辺りには、嫌な匂いが漂った。 だが、皆は我慢して作業を続けていた。怪我をしている人は、衛生兵が手当てをしていた。薬も、満足に無かったが仕方なかった。 弥生を乗せた汽車は、段々と東京に近付いていた。弥生は、窓の外を見た。町並みは消え、瓦礫の山になっていた。 改めて、驚いた。まさか、ここまでとは思っていなかった。ますます、和馬が心配になった。 (お願い…。和馬さん、どうか無事でいて…。)と、弥生は祈る思いだった。 和馬逹は、一休みして炊き出しを食べていた。こんな時に、贅沢は言ってられなかった。 道端の雑草でも、食べられそうな物は食べていた。和馬は、弥生と食べた鯖煮定食を思い出していた。 あれは、本当に美味しかった。脳裏に、弥生の笑顔が浮かんだ。 弥生は、駅に着いた。だが、どっちを見ても瓦礫の山だった。疲れた様子で、それを片付けている人逹がいた。 弥生は、その人逹を避ける様に歩いた。これでは、何処が何処だか分からなかった。
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