第二章

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一人の大佐が、前に立っていた。「良いか!良く、聞け!南の方では、我が同胞逹が必死に頑張っているが敗北が続いている。このままでは、本土決戦も止むなしとの声も出ている。」と、大佐は言った。 本土決戦…。そんな事に、なったら一般市民にも被害が及ぶ。それだけは、何としてでも避けたかった。 和馬の脳裏に、弥生の顔が浮かんだ。(あの人を、この戦争に巻き込みたくない。)と、和馬は思った。 だが、どうすれば良いのか分からなかった…。東京では、戦火を逃れて田舎へ疎開する者が増えていた。 だが、田舎も疎開先も無い者は仕方なく東京に残っていた。その中には、弥生逹母子も含まれていた。 「日本は、必ず勝つ!」と、声高に言う者もいた。だが、弥生はそうは思わなかった。 (日本は、この戦争に負ける…。)と、思っていた。だが、そんな事を口にすれば非国民として憲兵に捕まってしまう。 だから、黙っていた。女学校でも、話題は戦争の事ばかりだった。 「日本は、神の国よ!きっと、神風が吹いてアメリカを追い払ってくれるわ!」 弥生の友人の中には、そんな事を言う者もいた。それに、賛同して頷く者逹…。 だが、弥生は頷けなかった。和馬の顔が、ふと脳裏に浮かんだ。(あの人は、今頃どうしているのかしら?)と、考えていた。 学校では、毎日の様に竹槍の練習をさせられていた。鬼畜米英、と書かれた藁人形に向かって突き刺すのだ。 これが、かなり辛かった。体力を、消耗するのだ。学校が終われば、軍事工場での仕事が待っていた。 弥生は、丹念に落下傘を縫っていた。(もしかして、あの人が使うかもしれない。)そう思っていた。 弥生は、疲れていた。(でも、明日はあの人に会える。)そう思うと、辛い作業も頑張れた。また、脳裏に和馬の顔が浮かんだ。 本部での会議中、和馬は早くこの戦争を終わらせるにはどうすれば良いか考えていた。 と、その時だった。[ウーッ]と、警戒警報が鳴り響いた。その場にいた者は皆、窓に駆け寄った。 空を見ると、B―29が幾つかの編隊を組んで飛んでいた。 「畜生!また、爆撃に来やがったのかよ!?アメ公の野郎!」と、誰かが吐き捨てる様に言った。
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