月の満ちる夜。

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パタンと硬い音と共にドアから 出てきたのは、父とばかり 思っていましたが、母でした。 ぱたぱたと急ぎ足で姿は 見えなくなって、気が付くと 私は椅子から立ち上がり ドアを見据えていたのです。 父の姿はなくシーンとしていて 幾度となく隣りを覗きに 行こうか、どうしようと 立ちすくんだり座ったりと 迷いながら。いつしか 指先が冷たくなるのを 感じていました。やがて 諦めるようにブロンズ像を 知らず知らず壊している 私がいました。ハッと、 壊してしまったことに気付き、 視界がぼやけていくのを覚え 零れ落ちた涙で、粘土の みどり色が深い色に変化すると おもむろに再びビール瓶に 粘土を貼付けていくのでした。 ようやく頭が仏像のように なり始めたころ父が ゆっくりと出てきました。 椅子に座ったままの姿勢で 目を輝かせ父を呼び止めると、 父は、私の部屋を静かに 開け放ち、目が会うと寂しく ニッコリと微笑むのでした。 少し大きな声で、粘土で父の ブロンズ像を創っていたと 報告すると、驚いた表情を 見せてくれました。そして 優しい声で寝るようにと 再び寂しげに笑うのでした。 その夜、一度も母は私の寝室に 姿を見せませんでした。
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