11人が本棚に入れています
本棚に追加
「ば…ばぁちゃん!何言って…」
「陸。落ち着きなさい」
予想外の言葉に焦る俺を、静かに抑える。
「好きという言葉には、2つの意味がある。恋愛的と、人間的。陸の場合は後者。きっとその子の表情というか、雰囲気が、陸は気に入ってるんだよ」
静かに、語りかけるように話をしてくれる。
適当じゃ、ない。
しっかり考え、理解し、そして分かりやすく答えを返してくれる。
ばぁちゃんの、特技だと、俺は思う。
だから、ばぁちゃんの言うことは、信じるようにしている。
「そうなのかな。じゃあ…どうすればいいと思う?」
俺の弱気な発言に、すぐに返す。
「昔…こんな話をしたろ?師匠から川に落とされた、子どもの話を」
…その話ならしっかり覚えている。
いつだっただろうか。
ある日、師匠に武術を習っている、子どもがいた。
その子は、師匠の言うことは素直に聞く。
とても利口な子であった。
だが、その反面、言うことしか聞けない、という弱点も、あった。
それを師匠は見抜いていた。
そして師匠は、その子を…足などは到底届かない、湖に投げ入れた。
武術ばかりを習っていて、泳ぎなどは、知らない。
もちろん、子どもは足をばたつかせ、泣きそうな声で助けを、求めた。
数分後、その子はなんとか必死に自力で岸までたどり着いた。
そしてその子に師匠はこう言った。
「ある特定の行動の方法だけを知っているだけじゃだめだ。
今みたいに、何が起こるかなんて、分からない。水に落とされる事だってな。
その時にじゃあ、それは習っていないので分かりません、で死ぬか?
答えは、否。
分からない事でも、乗り越えなきゃならん。
自分なりの方法でな」
「つまり…?」
ばぁちゃんが俺に答えを求める。
俺は、
「自分で考えろ」
「そうじゃ。間違った道なんて無い。正解と思った道が正解じゃぞ」
「うん…そうだよな。ばぁちゃん、ありがと」
心が、晴れた。
ばぁちゃんは、雨のようだ。
心にある、モヤモヤを取り除いてくれる。
本当に、感謝してる。
最初のコメントを投稿しよう!