立花 紫織

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「ば…ばぁちゃん!何言って…」 「陸。落ち着きなさい」 予想外の言葉に焦る俺を、静かに抑える。 「好きという言葉には、2つの意味がある。恋愛的と、人間的。陸の場合は後者。きっとその子の表情というか、雰囲気が、陸は気に入ってるんだよ」 静かに、語りかけるように話をしてくれる。 適当じゃ、ない。 しっかり考え、理解し、そして分かりやすく答えを返してくれる。 ばぁちゃんの、特技だと、俺は思う。 だから、ばぁちゃんの言うことは、信じるようにしている。 「そうなのかな。じゃあ…どうすればいいと思う?」 俺の弱気な発言に、すぐに返す。 「昔…こんな話をしたろ?師匠から川に落とされた、子どもの話を」 …その話ならしっかり覚えている。 いつだっただろうか。 ある日、師匠に武術を習っている、子どもがいた。 その子は、師匠の言うことは素直に聞く。 とても利口な子であった。 だが、その反面、言うことしか聞けない、という弱点も、あった。 それを師匠は見抜いていた。 そして師匠は、その子を…足などは到底届かない、湖に投げ入れた。 武術ばかりを習っていて、泳ぎなどは、知らない。 もちろん、子どもは足をばたつかせ、泣きそうな声で助けを、求めた。 数分後、その子はなんとか必死に自力で岸までたどり着いた。 そしてその子に師匠はこう言った。 「ある特定の行動の方法だけを知っているだけじゃだめだ。 今みたいに、何が起こるかなんて、分からない。水に落とされる事だってな。 その時にじゃあ、それは習っていないので分かりません、で死ぬか? 答えは、否。 分からない事でも、乗り越えなきゃならん。 自分なりの方法でな」 「つまり…?」 ばぁちゃんが俺に答えを求める。 俺は、 「自分で考えろ」 「そうじゃ。間違った道なんて無い。正解と思った道が正解じゃぞ」 「うん…そうだよな。ばぁちゃん、ありがと」 心が、晴れた。 ばぁちゃんは、雨のようだ。 心にある、モヤモヤを取り除いてくれる。 本当に、感謝してる。
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