会話

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「喉、乾いてない?そこの水筒に飲み物あるから飲んでいいよ」 起きた直後だからなのか、ちょうど飲み物が欲しかった所だ。 お言葉に甘えよう。 「ありがとう」 と言い、一口、飲む。 お茶かと思っていたようだが、どうやら違うようだ。 「あ、そうだ。私の事は紫織って呼んでね!名字で呼ばれるの好きじゃないから」 会話をして気付いた。 紫織は、とても明るい性格で、誰からも好かれるタイプだろう。 「じゃあ俺の事も、陸で」 「陸はさあ、優しいんだね」 俺が言い終わる前に、下の名前で読んでくる。 突然の呼びかけに少々驚くが、紫織との会話に集中しよう。 紫織に言われた言葉を思い返し、意味を考える。 そうしてしばらく考えているうちに、 「あ、そうだ」 と言い、紫織はカバンの中から何かを取り出す。 「手、出して?」 言われるがままに、手を出す。 いつの間にか紫織にペースを握られているようだ。 ジャラ、という音と共に、それが、掌に落とされる。 手を開けばそこには、3枚の小銭。 「あの時のお金!本当に優しい人なんだねっ!」 「え…あれはただブドウジュースが飲めなかったから…」 あ… やられた。 さっきの水筒。 「ブドウジュースが飲めない人なんてそういないからさ。ありがとうね」 ニコッと顔を傾け、満面の笑顔で言う、紫織。 水筒の中身は…ブドウジュースだった。
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