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それから色んな事を話した。
空手の事、学校の事、普段の生活の事、紫織は小学校の時から入院し続けている事、外の世界にはあまり行ったことが無い事。
気付けば、ずっと笑っていた。
初めて会話をした人なのに、ずっと笑い合える。
そんな力が、紫織にはあった。
ふと、紫織が時計を見る。
「あ…そろそろ検査だ…」
露骨に嫌な顔をする、紫織。
その気持ちは、俺も同じだ。
こんな楽しくて幸せな時間が終わってしまうのだから。
「じゃ俺はばぁちゃんの所へ行くよ」
と、イスから立ち上がる。
そして扉を開けようとした、その時
「陸!」
急に名前を呼ばれ、立ち止まり、振り向く。
「どした?」
紫織は俯き、どこか照れ臭そうに、こう言った。
「明日も…ここに来てくれるかな?」
風に吹かれれば、どこかに消えてしまいそうな、小さな声。
だけど…気持ちは、大きいと、陸は感じた。
「来ていいの?」
「うん。検査が終わるのは5時ぐらいだから、それぐらいに」
「分かった。絶対来るよ」
そう言った瞬間、つい見とれてしまうほど綺麗な笑顔が、ベッドの上にはあった。
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