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自分が買った事で売り切れになる、多少の喜びと、自分のせいで、売り切れてしまった、という少々の罪悪感が残ったが、そんな気持ちは気にせずに、病室に戻ろうと、振り向く。
すると、いつから並んでいたのか、そこには、自分と同じくらいの歳だろう。
車椅子に乗った、黒のストレートロングの髪。
整った顔、茶色がかった瞳で、自動販売機を見つめる、1人の少女。
顔からは…悔しさとも、悲しさともとれる、表情。
自動販売機の前に並んでいるのだから、何か飲み物を買いに来たのだろう。
だが、しばらく自動販売機とにらめっこした後、その1人の少女はどこか切な気な表情をし、何も買わず、方向転換をする。
何も買わないのかな?
その様子を、缶のフタも開けずに見ていた、陸。
待てよ…。
自動販売機の前に並んでいて、前の人が買うのを、待つ。
そして前の人が買い終え、それが売り切れになる。
もし、それと同じものを目的に買いにきて、それが前の人で売り切れになったら…。
その先の事を考える前に、俺の足は、その子に向かっていた。
そして
「ねえ」
声をかける。
反応は…無い。
もう一度、今度はさっきよりも大きめの声で呼びかける。
「ねえ!」
すると少女は、少し驚いた表情で、振り向く。
「はい?」
「あのさ…これ、あげるよ」
その時、一瞬少女の表情に変化があったのを、俺は見逃さなかった。
少女は、すこし間を起き、
「え…いや、いいですよ。悪いですし」
「いいからいいから。俺、実はブドウジュース飲めないんだよね。ぼーっとしてて、いつの間にかこれのボタン押してて」
ははっと笑い、それでも受け取らない少女に、
「好きなんでしょ?これ。飲みなよ」
と、半ば強引に手渡す。
そして、返事も聞かずに、振り向き、病室へと歩を進める。
何故そんな事をしたのか、自分でも分からない。
でも…彼女の顔を見てると、体が勝手に動いていたんだ。
これが、普通の高校生、陸と1人の少女との出会い。
この出来事が…これから先の2人の未来を変える事になるとは、知る由も無い。
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