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5月。
雨の日が、続く。
俺は、この季節が好きだ。
なんの迷いも無く、降り続く、大量の雫。
迷いの無い、純粋な雫故に、人間の心を、洗い流す。
そんな風景を見ていることが、幸せに感じる。
今日もお見舞い。
母さんから聞いた話によると、大事を取って、2ヶ月ほど、ばぁちゃんは入院するらしい。
だからこうやってちょくちょくお見舞いに来よう、と決めた。
静かに開く扉をくぐり、306号室へ向かう。
途中、遠目に、いつか見た姿が。
「あ…」
車椅子でロングヘアー。
どこか、楽しそうな表情だ。
ぼーっとその姿を眺めていると、後ろから
「紫織!また勝手に病室抜け出して!」
その少女そっくりな、スタイル抜群の女性。
母親だろうか。
「いいじゃん!最近は調子いいんだもん♪」
「だめだって何回言ったら分かるの!どこかにいきたいときは、お母さんに言いなさいって言ってるじゃない!」
「む~…分かったよ…」
…分かっていないな。
瞳の奥に、病室の外に出る楽しみが潜んでいるのが分かる。
それにしても…
あの子
紫織って名前なんだ。
この時からだろうか。
あの少女の事を、知りたいと思い始めたのは。
恋愛、
とかじゃない。
ただ、純粋に知りたい、と
思ったんだ。
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