立花 紫織

2/6
前へ
/55ページ
次へ
5月。 雨の日が、続く。 俺は、この季節が好きだ。 なんの迷いも無く、降り続く、大量の雫。 迷いの無い、純粋な雫故に、人間の心を、洗い流す。 そんな風景を見ていることが、幸せに感じる。 今日もお見舞い。 母さんから聞いた話によると、大事を取って、2ヶ月ほど、ばぁちゃんは入院するらしい。 だからこうやってちょくちょくお見舞いに来よう、と決めた。 静かに開く扉をくぐり、306号室へ向かう。 途中、遠目に、いつか見た姿が。 「あ…」 車椅子でロングヘアー。 どこか、楽しそうな表情だ。 ぼーっとその姿を眺めていると、後ろから 「紫織!また勝手に病室抜け出して!」 その少女そっくりな、スタイル抜群の女性。 母親だろうか。 「いいじゃん!最近は調子いいんだもん♪」 「だめだって何回言ったら分かるの!どこかにいきたいときは、お母さんに言いなさいって言ってるじゃない!」 「む~…分かったよ…」 …分かっていないな。 瞳の奥に、病室の外に出る楽しみが潜んでいるのが分かる。 それにしても… あの子 紫織って名前なんだ。 この時からだろうか。 あの少女の事を、知りたいと思い始めたのは。 恋愛、 とかじゃない。 ただ、純粋に知りたい、と 思ったんだ。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加