荊の道

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私は今日も見つめている。 此処から、貴方だけを、 ずっと…… ずっと……。 泣かないで。 泣かないで。 泣いてるつもりはないでしょう? でも、私にはわかるの。 私には、貴方のその白い頬を伝う、 透明な、乾いた涙が見える。 笑って。 笑ってちょうだい。 笑ってるつもりなの? 笑えていないでしょう。 貴方にもわかるでしょう? それは笑顔じゃない……。 抱いて。 ただ抱いてくれれば…… この距離は、貴方との距離は、儚く、ただ遠い。 荊の道を、裸足で歩く貴方。 後を追うけれど、荊に囚われ、動けない私…… 振り向いて。 ほんの瞬きの間でも…… 私は逃さない。 見逃さないから…… 今日も私は貴方を見つめる。 貴方だけを見つめている。 届かない…… 私の漆黒の頬を、氷の様な涙が伝う。 ただ、もどかしく…… ただ、狂おしく…… 貴方のその声に焦がれ…… 貴方のその腕を求め…… 届かないなら、 届かぬのなら…… いっそ、私をこの荊の海へ、沈めてください…… 遠く、貴方の声がする。 大切だった。と…… 荊の詰まった喉を絞り、届かぬ声で、私は答える。 大切 なんて気休めは要らない。 ただ、貴方の全てが、 貴方の狂気が、 欲しかったの……。 頭の上で、荊は閉ざし…… 暗闇の中、私は今日も、 貴方だけを見つめている…… .
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