第五話

2/2

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
もう夜なのに猫が帰ってこない。 ベランダを少し開け、猫の代わりにぼくの部屋を訪れるいまいましい羽虫と格闘しながら待つ。猫はぼくに何の恩恵ももたらさなかったが、突然消えてしまうのはさびしい。 明日になったら帰って来るだろうか。 翌朝、ぼくが歯を磨いていると猫はいつもの真面目くさった顔で帰って来た。 外泊する時は一言断われと、思春期の子供を抱えた口うるさい親の様な事を言うぼくに猫は言った。 「無断で外泊したのはすまないと思ってる。俺もあんたみたいに携帯電話を持っていたら連絡をしたんだけどな。でも、俺が持っていても誰からもかかって来ないのは分かり切ってるから持つだけ無駄ってもんさ。あんたの携帯電話も誰からもかかってこないけどな」 余計なお世話だ。 犬は一宿一飯の恩を忘れないと言うが、猫は忘れる、と言うよりもはたして恩を感じているかどうかも怪しい。 猫にその事を言ってやったら、思いの他気分を害したらしく反論が帰ってきた。 「冗談にも程がある。犬みたいな野蛮な生き物と一緒にしないでくれ。あんただって、犬と比較されたら気分が悪いだろう?」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加