第七話

2/2
前へ
/16ページ
次へ
今日はクリスマスイブだ。 今日も明日もバイトだけど、雰囲気は好きだしこれを堪能しない手は無い。 わざわざスーパーで猫の分までショートケーキを買って帰った。 しかし猫の台詞は、 「アルバイトから帰ってきたと思ったら、今日はやけにうきうきしてるんだな」 うきうきとはご挨拶だ。 今日はクリスマスイブだと言うと、猫はよりにもよってこう答えた。 「前に住んでいた家の奴らはクリスマスイブと言うと決まってどっかに姿をくらましてたぜ。不吉な日じゃないのか?天狗が出るとか」 たしかに赤い男は現われるが、それは間違いすぎだ。 猫は続ける。 「たしかキリストとか言う宗教家の誕生日もその日だったよな。テレビでやってたよ。信者はクリスマスと宗教家の誕生日の偶然の一致にかこつけて宗教組織のコマーシャルをしてるぜ。せこいよなあいつら」 隣の家の犬の朝食よりも少ない脳みそでワイドショーからひねり出した結論がそれか。 せっかくのクリスマス気分もだんだん冷めてきた。 少しムッとした僕は、猫とは言え口は災いの元という言葉もしっておくべきだと思い、気を悪くした口調で答えた。 「僕はキリストの誕生日を祝ってるんだ」 自分の失言に気付いたのか、猫はだまってしまった。 暫く沈黙してから、猫は気まずそうに口を開いた。 「あんたをがっかりさせたくないんだが……知っておいた方がいいと思ってね。どうか落ち着いて聞いてくれ」 珍しく深刻な口調で話す猫に、ぼくは思わず彼の顔に目をやった。 猫は真面目くさった顔で続けた。 「テレビで聞いた話なんだけど…キリストはもう亡くなったんだ」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加