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ある日、彼が路地裏を歩いていると娘がうずくまっていました。
助けようと近づきましたが、娘の顔を見た途端、彼は知らん顔をしました。
なぜなら、娘の顔は美しいとはとても言えなかったからです。
彼は美しい女性にしか優しくありませんでした。
彼が娘の横を通り過ぎようとした時、娘が彼のズボンを掴みました。
「助けてください……」
蚊の鳴くような、弱々しい声です。
しかし、彼は無視をして娘の手を振り払いました。
「助けてください、本当に辛いんです……」
しかし彼は歩き続けます。
二、三歩ほど歩いたところで、彼の肩に何かが触れました。
ビクッと体を震わせて振り向くと、そこには先ほどの娘が立っていました。
足首まである長いスカートは薄汚れています。
その服装が、より一層彼女をみすぼらしく見せました。
「なんだお前、歩けるんじゃないか」
彼は眉を寄せました。しかし彼女は無表情なままです。
「なんなんだ。からかっているなら行くからな」
彼が歩き出そうとすると、娘がしっかりとした声で言いました。
「あなたの目は不良品です」
その抑揚のない言葉は、彼の足を止めました。
「なんだと?」
振り向くと、彼は指差されていました。
「あなたの目は、神様が間違えてはめてしまったのです」
彼には意味がわかりません。
そんな彼をお構い無しに、娘は続けます。
「私は神様に言われ、あなたの目を治す為に来ました」
気が狂っているとしか、彼には思えませんでした。
話を聞いているのが馬鹿馬鹿しくなり、彼は今度こそ行こうとしました。
振り返り足を踏み出した瞬間、目に激痛が走りました。
「あぁ……っ!!」
その場にうずくまり、激痛に身悶えます。
足音が、彼の側に近づいてきました。
「今は痛いでしょうが、すぐに治ります」
先ほどとはうってかわって、優しい声が響きます。
「あなたの目は今、生まれ変わっているのです」
彼に話を聞ける余裕はありませんでした。
目がえぐられるような感覚と、焼けるような熱さ。
目を開けることすら出来ません。
「たっ……助けてくれ……」
彼は手探りで娘を探しますが、手に触れるのは冷たい地面ばかり。
「痛みがなくなったら、あなたの世界はうんと変わることでしょう」
涼やかな声が耳元で聞こえたと同時に、彼の目の痛みは波が引くようになくなりました。
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