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青年が最初に見たのは、板目張りの天井です。
次に、彼が硬いマットとぺちゃんこな羽毛布団に挟まれていることに気付きました。
ゆっくりと右に顔を倒すと、暖炉で炎がパチパチとリズムを奏でています。
「気づかれましたか?」
彼が起き上がって柔らかい声の方を見ると、そこにはみすぼらしい姿をした女性がいました。
しかしその人は先ほどの恐ろしい女性ではありません。
そこにいる人は、身震いしてしまうほど、整った顔立ちをした女性でした。
「急に倒れたので驚きました。たまたま家が近かったのでお連れしたのですが……」
彼女はどこか、おどおどとした様子で言いました。
「迷惑でしたよね……」
消え入りそうな声です。
「とんでもない!こちらこそご迷惑をおかけしました……」
彼は始終顔を赤らめていました。
──恋に落ちたのです。
しかしそれはいつも通り、彼女の顔が美しいからでした。
「ミルクを暖めました。暖炉の側にどうぞ」
彼は言われるままに暖炉の近くに座り、彼女から湯気の立つ白いカップを受けとりました。
彼女も彼から少し離れて座り、ミルクに息を吹きかけてからゆっくりと飲み始めました。
「ありがとう」
彼が微笑むと、今度は彼女が顔を赤らめて、俯いてしまいました。
彼はミルクを飲みながら、それとなく部屋を見回しました。
広いとは言えない部屋で、家具と言えば彼が寝ていたベッド、腰の高さ程しかない低い棚、あとは一人分の食事しか乗らないような小さなテーブルと椅子だけでした。
「あなたはここに、一人で住んでいるのですか?」
彼が聞くと、彼女は静かな声で
「両親と三人で暮らしていたのですが、両親は一年前に事故で亡くなりました。私一人の稼ぎでは質素な暮らししかできなくて……」
と答え、恥ずかしそうにカップを見つめました。
彼は今日のお礼に、少しでも彼女の力になりたいと思いました。
その旨を彼女に伝えると、彼女は困ったように、申し訳ないから、と丁寧に断りました。
しかし彼は諦めず、一生懸命に説得しました。
結局彼女は根負けして、会いに来てくれれば良い、とだけ答えました。
彼はとても喜び、心から感謝を述べてその日は帰りました。
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