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そこにいたのは、彼が知っている美しい彼女ではなく、どこにでもいるような平凡な女性でした。
目が大きいわけでも、鼻立ちがすっきりしているわけでも、唇が薄いわけでも、肌が白いわけでもない、普通の女性。
ただ、今の彼女の目は涙を溜めて真っ赤に腫れていました。
「これは……どうしてこんな……」
彼は驚きを隠しきれず、彼女はより一層激しく泣きじゃくりました。
「ごめんなさい……これが本当の私なの……」
声も体も彼女なのに、顔だけが他人。
彼は飛んでしまいそうな意識を必死に繋ぎとめました。
彼女は目に溜まった涙を手の甲で拭きますが、涙はとめどなく溢れます。
「あなたが倒れていたあの日、あなたの目は美しい人は美しくなく、美しくない人は美しく見えるように変わったの……だから美しくない私はあなたの目に美しく映った」
彼女の絞り出すような声は悲しみに満ちていました。
彼は静かに彼女の話を聞くことしか出来ません。
「けれどあなたが、私が本当は美しくないということに気付いたとき、目は元に戻ることになっていたの……。手鏡が割れたのはあなたが私の真実に気付いた証拠」
彼は、ふっと不思議に思いました。
「なぜ君は、俺の目の事を知っているんだ?」
彼女は戸惑うように床を見つめ、ぽつりぽつりと話しだしました。
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