微妙なお年頃

4/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
最近、沙良の笑顔…見れてないな… 今だってビー玉のような死んだ目をしていた。 あーあーあーあーあー。 駄目だ、また毒づかれる。 とりあえず土鍋土鍋… あれ?何処だ? 「…まだ出来てないの?用意」 台所をがさごそ探っていると、着替え終わった沙良が仁王立ちしていた。 「沙良ー土鍋何処?」 「下」 俺は意外と、コーヒー以外のことは全く分からないようだ。 「あった。」 「親父、もういい。 後はあたしがやる。」 「…スミマセン」 何だか申し訳なくなった。 「親父は皿洗い当番ね。」 「ハイ。」 すごすごと台所から出て、テレビの前のソファに座った。 トントントン、とリズム良くキャベツを切る音がする。 だいぶ上手くなったんだな、包丁捌き。 しばらくして、台所を覗くと、 必死に箱を見ながら煮込みラーメンを作っている沙良がいた。 「後は…煮込むだけか…」 ぼそりと呟いて、土鍋をコンロにかけた。 「手伝おうか?」 「いらない」 バッサリ一刀両断。 お父さん、泣きそうです。 勢い良く火がついて、鍋が温まってゆく。 「何分?」 「箱見ろ」 「…5分か…」 「…」 「…」 じーっと二人で鍋を睨む。 ―異様な光景だ。 「そういえば、沙良この間学校でほめられたんだって?」 「皆平等に褒められてるよ」 「まぁソレはそうだけど…」 「…」 数少ないコミュニケーションのチャンスがっ…! 「…っ!わぁっ?!」 無くなったかと思って、台所を後にした直後。 沙良の慌てた声が聞こえた。 「どうした?!」 「鍋いきなり溢れた!!」 「火っ火止めろ!!」 「分かった!」 カチッ 火を止めた瞬間、鍋は治まった。 …が。 「ぷっ…あはははっ…」 急に沙良が腹を抱えて笑い出した。 「鍋一つでっ…じたばたするなんてっ…傑作っ!!」 小さい頃からの、沙良の笑窪は同じだった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!