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「やめろ、待て、待ってくれ! お願いだ、何でもする! 何でもするから! どうか殺さないで……」
哀れっぽく。なるべく同情を引くように。
それらの事を意識して言いながら、密かに術式を組み始める。こんな訳の分からない奴に、訳も分からないまま殺されるなんてふざけているにも程がある。
ここまで虚仮にされたのだ、多少痛い目にあって貰って、尚且つ多額の慰謝料をふんだくってやらないと気が済まない。
そんなダグラスの心の内を知ってか知らずか、影は巨剣を振り上げた姿勢のまま、動きを止めた。
「……待て、だと?」
淡々としているように聞こえる声で、影はそんな事を言った。
「お前達は待たなかったじゃねぇか」
メキ、とダグラスの体が軋む。影の体から伸びている黒い何かが、ダグラスを押さえる力を強めたのだ。
「あ、が……ッ!?」
苦痛のあまり集中が途切れ、組み上げていた術式の構成が霧散する。反撃の為の時間稼ぎのつもりが、逆に仇となってしまったらしい。
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