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……と、その時だった。
──キャハハハハ……
「ん?」
門を開けてくぐり抜けようとしたその瞬間、ダグラスはふと動きを止めた。
微かではあったが、誰かの笑い声が聞こえたような気がしたからだ。
周囲を見回し、耳を澄ます。が、それきり笑い声はおろか何の物音もしなかった。しん、という静寂が耳に痛く感じるくらいである。
「……気のせいか?」
小さく呟きながらも、もう少しだけ様子を見てみる。再度周囲を見回してみるが、目に入ってくるのは夜の色に染まった我が家の門と庭の芝のみだ。どうやら、本当に気のせいだったらしい。
「……」
ひょう。そんな甲高い鳴き声を上げながら、風がその場を通り過ぎて行く。その指先は思いの外冷たくて、身体が勝手に身震いしてしまう。
結局、寒さに負けた。何か違和感のようなものを感じた気がしたのは否めなかったが、月が紅いせいだろうと半ば強引に思い直した。
肩を竦めながら庭を横切り、扉の鍵を開けて家の中へ入る。
こんな気味の悪い夜は、さっさとベッドに潜り込んでやり過ごすべきだと、そんな事を考えながら。
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