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「バカな……!?」
「……」
影は応えない。
ゴツゴツとブーツの音を響かせて、奴は再び近づいてくる。
反射的に逃げようと考え、体を動かそうとして、
「!?」
それが叶わない事に気付く。影の体から伸びている、闇に溶け込むような黒い何かが、ダグラスの体を押さえつけていたからだ。
「……富を得た。権力を得た。もう充分だろ?」
やがて目の前に立った影は、囁くように言った。
その声は鬱々としていて仄暗く、まるで深い闇の底から聞こえてくるかのようだ。
「そろそろ、償え」
言いながら、影は手に持つ巨大な何かを振り上げる。街灯の明かりの中に浮かび上がるのは、獣の上顎を模したような、影の身の丈程もある大剣のシルエット。
──殺される。
その事実が急速に現実味を増し、ダグラスは慌ててその口を開く。
何でもいい。
とにかく時間を稼がなくては。
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