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咳が漸く治まった頃、私が深雪に申し付けたように燈奈を日野に預けると深雪が伝えにきました。
正直言わなければ良かったと思う反面、愛しい娘を自分にこれ以上近付けてはならないと感じました。
彼女には絶対移してはならない
私のそんな表情を感じ取ったのか....深雪は一旦、部屋を出て直ぐに戻ってきました。私が今、会いたくてでも、会いたくない人を連れて。
「燈奈、お父様に出立のご挨拶をなさい。総司さん、燈奈の相手をしていてくださいね。荷物を少し纏めてきますから。」
「わかりました。」
にこやかに私が笑うと深雪もどこか安堵したような笑みを見せ、一礼をすると部屋を出て行きました。
彼女が嘘を付いているのは明白。彼女が私が彼女達を部屋から閉め出している最中に何もしていないわけがありません。荷物はとっくに準備出来ているはず。理由的にはこうして目の前にいる燈奈に旅支度の格好をさせているのだから....
「燈奈....」
「とぉさま....」
「どうしました?燈奈....おいで。」
“おいで”それは絶対言ってはいけない単語。
それでも口は勝手に動いた
それに反応するように微かに涙を浮かべた燈奈は走るように私の胸に飛び込んできました
「とおさま....ひないいこにしてます」
一番最初に発せられた言葉に驚きながら燈奈の髪を撫でました。三っの子どもに似つかわしくない言葉
「いうことききます
「はい。」
「まいにちおいのり」
「はい。ありがとうございます」
「だからね....ひーたんととおさまばいばいいや。」
最後は自分とよく似た瞳から涙をぽろぽろ零して縋りついてしまった燈奈。
久しぶりに聞いた娘が使う一人称。しばらく見なかった娘の涙
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