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ここに来ればいつでも安心できる。
この人達の子供に戻れる気がした
ひんやりとした石とその傍らにある、すっかり緑の生い茂った桜の樹の前に花束を添えると幹をそっと撫でた
「今年もこの日になりましたね...お父様...」
瞳を細め若葉の間から零れる日差しを見上げれば、さわさわと葉が揺れた。
「ちゃんとお母様の所に行って参りました。」
ふんわりと笑顔で答えると優しい風が漆黒の綺麗な髪を撫でてゆく
まるで....
まるで、礼を言っているように
それがくすぐったくて嬉しくて仕方がない
「お父様が好きなお団子と金平糖も持って行きました。お母様にもちゃんとお持ちしましたから...一緒に食べれるように」
どうぞと墓石の前に差し出せば、また風がそよいだ。
「お二人で仲良く召し上がってくださいね」
毎年少しずつ思い出される記憶は温かくてとても優しい
「出来れば....お父様ともっと触れ合っていたかった」
今となってはもう叶わない事だと承知だけど
「思い出せるといいなぁ....」
この場に眠っているお母様が愛してそして愛されていた人を今より鮮明に、より細やかに....
「燈奈....」
「遒様....」
後ろから掛けられた少し不安げな声に燈奈は息を呑んだがそれはすぐに笑顔に変えられた
「大丈夫か?」
「はい....ありがとうございます」
肩を抱かれると燈奈は微かに赤くなった。
遒は墓石を真っ直ぐに見つめ静かに頭を下げた
「俺が燈奈を守っていきます。どうか....見守っていて頂きたいです。義父上、義母上...」
「遒様....」
嬉しくて涙が出そうになるのをぐっと堪えた。
「....さて、戻ろうか。明日も忙しい」
「はい。」
燈奈は頷くと手を合わせた。
また暫くは逢えない
「お誕生日おめでとうございます....」
極上の笑みを零すと寺を後にした
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