涙だけは止まらなかった

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夫は在職中から、会社から自宅に帰るバス乗り場が分からず、タクシーで帰宅したり、新聞を読んであげた後で、まだ読んで貰って居ないと言ったり、電話の伝言を伝えてくれなかったりするようになりました。 医師の診断は(※1)アルツハイマー型認知症。 目の前が真っ暗になり、何故仕事一筋で真面目な夫がこんな事になるのかと信じられず、毎日毎日泣いてばかりいました。 異状に気付いてから一年位経っていたと思います。 ですが当時は、分からなかった事でした。 二人息子は、それぞれ独立し、家庭を持っていました。 夫婦二人だけの生活で、夫の介護は全て私一人の責任。 昼夜関係無く気の張り詰める毎日でした。 (※2)ディサービスを利用していましたが、自宅に居る時の介護が重労働だと判断したケアマネージャーの方から、施設への入居を勧められました。 夫を他人にお世話して貰う後ろめたさ、申し訳なさ、悲しさ、寂しさ…。 私一人では世話が出来無くなったので、お願いしているのだと言う事を承知の筈なのに、夜一人で過ごし、話し相手も無く、同じ市内で別々に過ごす事のやり切れなさを感じました。 今、夫は入居前の不規則な生活から一変し、穏やかに生活しているようです。 夫の認知症を通して分かった事は、認知症で全てが分からなくなった訳では無い、と言う事。 まだまだ健全な部分も残されており、昔から持っていた知識も豊富で、夫は今でも私が間違っていたり知らなかった事を教えてくれます。 私も分からない事はまず夫に聞きます。 それは以前と全く変わりません。 夫が施設に入ってから、私は心に余裕が出来、優しい人間になったと思います。 自宅介護していた頃の、いつもイライラしていた頃とすっかり変わりました。 夫の認知症が進行していく事を考えると心配ですが、今の状態が長く続いて欲しいと願ってます。 <完>
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