第一話:幸運レンタル機

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上履きに履き替え、教室へ向かう。 窓が開いており、中の様子が伺えた。 既に授業が始まっており、生徒は皆、黒板に向かっていた。 (ゲッ、向田。何で・・・) 今日の1限目は英語。 佐山(サヤマ)という女性教師が担当だった。 しかし、今教室に居るのは向田(ムコウダ)。 現国の担当で、孝介の担任だ。 (どうしよう・・・このままフケちゃおうかな・・・) しかし、孝介は受験生。 サボって遊んでいるワケにはいかない。 とりあえず、教室の後側からの侵入を試みる。 身をかがめ、音をたてない様に席に向かう。 丁度良い事に、向田は黒板に向かっている。 (しめしめ・・・) ゆっくりと慎重に自分の席に急ぐ。 もう少しで到着。 そう思った瞬間だった。 「持内、お早い登校だな」 いつの間にか向田が、腕組みをしてこちらを見ていた。 「あっ、あのっ」 周りの視線が痛い。 「すみません」 うつむいたまま、そう言うしかなかった。 どこからか、クスクスと笑い声が聞こえる。 今日はよく笑われる日だ。 朝からツイてない。 向田の一言が、更に追い討ちをかける。 「持内、レポートは持ってきたか?」 「はっ、はい。持ってきてます」 急いでカバンの中に手を入れる。 「あれっ?」 ない・・・ 確かに持ってきたハズなのに・・・ まさか・・・ あの時、落としたのか? 焦りの色が濃くなっていく。 幾ら探しても、やはり見あたらない。 「どうした?忘れたのか?」 向田の冷たい言葉が刺さる。 「・・・ すみません・・・」 他に言葉が浮かばない。 「全く、遅刻はするは、レポートは忘れるは・・・」 呆れ顔の向田の小言が始まる。 「お前には、受験生としての自覚が・・・」 こうなると長い・・・ (みんなゴメン・・・) そんな気持ちで一杯だった。
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