心の宝物

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暗闇を満月が照らしている。 「ヒデ?なしたん?」 校庭の裏。 放課後で周りには誰もいない。 私はヒデに「今すぐ会いたい」と呼び出された。 来てみると制服を着たヒデが月を見上げて立っていた。 不思議に思いながらも声をかけると、ヒデは私の方を向いて笑った。 「どうしたの?こんな時間に…」 一言もしゃべらない。 ゆっくり近づく私の腕をいきなり掴み抱き寄せた。 あたたかい。ヒデのぬくもり。 「…ごめん」 耳元に響くヒデの声。 私はなぜか、声を出すことも動くこともできなかった。 ただ、ヒデの声だけが私の中に響く。 「約束…守れなくなった」 諭すように優しく告げる。 でも、その中にどこか切なさを感じた。 「花火大会…一緒にいってやれなくなった」 花火大会。 去年からの約束だった。 それなのに予定を入れるはずがない。 私はどうしても気になった。 「どうして?去年からの約束でしょう?今年はお互い浴衣着て行こうって…」 「だから…ごめん。…どうしても行けなくなったんだ」 理由を言ってくれないヒデ。 私は、どうしても納得できなった。 「理由…。教えて」 しばらくの沈黙。 「今は言えない…。そのうちきっと分かると思うから」 「分からないよ。今知りたいの」 ヒデを突き放して、距離を置いた。 2人の間に風が流れる。 「行かなきゃ行けない所ができたんだ」 「どこ?」 「今は言えない。…ごめんな」 謝るヒデの切ない声に、これ以上聞いてはいけない気がした。 私は一つ深呼吸して、苦笑いを浮かべる。 「…そこまでいうんだもん。これ以上聞けないよ。しょうがない!あとで教えてね」 ヒデは少し考えるような素振りを見せた後、小さく頷いた。 その返事に私も頷いて、ヒデを信じることにした。 「じゃあ帰ろう?」 気をとりなおして笑顔で私は問いかけた。 しかし、ヒデは俯いたまま。 「俺…寄る所あるんだ」 ヒデがそう告げたのと同時に私は人の気配を感じて、後ろを振り返った。 すると、そこに息を切らしたミキオが立っていた。 「あいつが送ってくれるから、先に帰っててくれ」 「…うん。分かった…」 最初から最後まで不思議に思いながら、頷いてミキオの方へ向かった。
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