プロローグ

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ガラスの窓を開けると、気持ちの良い涼しい風がその部屋に吹き抜ける。 少年がバルコニーに足を踏み入れると、足音に気付いたのか真上から地上を見下ろす満月を見上げながら歌っていた少女は、歌を止めて少年の方に振り向いた。 その人物は、黒髪の少年と同じ位の背丈、歳の幼い少女。 腰より下の位置まで伸ばされた金色のウェーブした艶やかな髪に、クリッと大きなエメラルドグリーンの瞳。先の尖った上を向いて生えている耳が印象的な、目鼻立ちがとても整っている可愛らしい少女。 「なにしてるの?」 少年は少女の横まで歩を進めて、一メートルちょい程の高さの格子に両手を乗せると、そこから見えるあたり一面緑に覆われた景色を見下ろしながら、少女がこんな夜中に一人、バルコニーに出ている理由を訪ねる。 「へへへ。なんか、目が覚めちゃった。」 少女は目尻と口元を緩めて、優しい微笑みを少年に向けながら答える。 少年はその視線を、緑色に覆われた景色から少女に向けて 「その歌、僕が"あの日"歌ってたものでしょ?」 「うん、そうだよ。私達が出逢った"あの日"、"あの場所"でね。」 バルコニーに吹き抜ける気持ちの良い涼しい風に、少女は金色の髪を片手で抑えて、笑みを浮かべたまま答えた。 「ねぇ。」 少しの間の沈黙が二人の間に流れると、少女は緩んでいた目元口元を引き締めて、真剣な表情に変わると、口を開く。 「"ランス"…ランスはこの世界の事をどう思う?」 どうやら少年の名前はランスというらしい。 ランスと呼ばれた黒髪の少年は、いきなりのその問いかけに目をまん丸くして首を傾げる。 「…なんの事?"マナリア"。」
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