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あたしは空を見上げた。
広い、広い、空。
青く澄んだその真ん中に、太陽が光り輝く。
日差しが暑くて、傘をさした。
腫れた瞼に影が落ちる。
振り返れば、さっきまでいた事務所が大分遠くなっていた。
「…未練なんか、ない」
言い聞かせるようにつぶやいて、あたしは前を向いた。
がらがらと音を立てながら、キャリーバックを引いていく。
歌手、ジュリアの終わりだった。
あたしが歌手として活動し始めたのは一年前のこと。
オーディションに合格して、事務所が決まって、レッスンも受けて。
やっと成功できる、と思った。
なのに。
「なんであたしがそんなことまでしなきゃいけないんですか!?」
偉い人の接待なんて任されて、ご機嫌を取ってこい、なんて。
納得できなかった。
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