樹里

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 あたしがあまり売れてないのはわかる。  でも色仕掛けとか露出で点数を稼ぐような歌手にはなりたくない。  そう言ったら、マネージャーに怒られた。  勘違いするな、と。  あたしはキレた。  キレて、キレて、キレまくって。  事務所を追い出された。  簡単に言えば、解雇。  冗談じゃない。  こんな事務所、こっちから願い下げだ。  荷物をまとめ、あたしは事務所を出た。  半ば、飛び出すように。  二度と戻る気はなかったし、戻れないのもわかっていた。  だけど、どうしよう?  あたしには行くあてがない。  芸能界にはお母さんに協力してもらって入ったけど、お父さんには勘当された。  高校にも行かずに歌を歌う道を選んだことを、凄く怒っていた。  家には帰れない。帰りたくない。  遠ざかる事務所を振り返る事なく、あたしは歩いていく。  とりあえず居候先の長谷川家に帰ろう。
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