いつかのメリークリスマス

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  上京して…3年。 仕事にも生活にも この街にも充分慣れた。 それなりに恋もして、それなりに遊んで、気が付いたらもう21歳。 夢や希望を抱いていたあの頃の俺はもう居ない。 田舎じゃこんな俺でも、“歌が上手い”って、なかなか有名で 『絶対歌手になれるよっ!!』 そんな言葉を鵜呑みにして、俺は小さな荷物とギターだけを抱え、この街にやって来た。 思い描くのは、 華々しく輝く未来ばかり… だけどそんなのは 1年もたたないうちに消え失せた。 この街には、歌の上手い奴なんて腐る程居る。 いくら俺でも、届かない夢を追うほど馬鹿じゃねぇ。 俺なんかのレベルで歌手になれる訳がない。 だから俺はサッサと見切りを付けた。 同じ田舎から上京した親友に、仕事を紹介してもらって、仕事に専念する事にした。 音楽に未練が有る訳じゃないけど、でもやっぱり俺は歌うのが好きで 誰かに聴いてもらいたい訳じゃないけど俺は週3回、駅裏のロータリーに腰を下ろし、ギター片手に唄を歌っている。 代わり映えしない日々の中で…今の俺にとってはそれが唯一の楽しみになっている。  
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