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春の優しい風が流れるこの場所で、真冬のバラードを歌う俺は…きっと異様だろう。
さっきまで無関心だったみんなが、チラホラ視線を向けてくるのが分かる。
それはなんとも居心地の悪い視線だったけど、俺は気にせず歌い続けた。
今は彼女の為に歌ってるんだから…
他の人にどう思われようと、関係ない。
切ない歌を歌い終えて、再び彼女に視線を向けると、彼女は満足そうに微笑んでくれた。
『私、この歌好きなんだぁ!!ありがとう。』
季節はずれでも気にしないほど、彼女は本当にこの歌が好きなんだろう。
でも俺はそんな事よりも、涙を流していた彼女が少しでも元気になってくれた事を嬉しく思った。
『ねぇ…?少しここで聴いてても…イイ?』
不意に出された彼女の言葉に、そろそろ帰ろうと思っていた俺は、
『あぁ~いいよ。』
なんて、言ってしまい…しばらく歌い続けるハメになった。
『そろそろ帰る』と言い出せない自分を、馬鹿だなぁ…と思いながらも、
泣いていた彼女をほっといてさっさと帰れない自分が居る。
何故だか無償に、もう少し彼女と一緒に居たいと思う自分が居た。
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